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『南極料理人』

飛行機の機内に偶然あった堺雅人さん主演の映画。
南極観測隊に同行した料理担当の西村君、の目線で綴られる南極のお話。
だから、南極のこととか、観測のことがメインではなく、あくまでも「食事」をメインにした物語。
だけど、そこに、狭い範囲での人間関係だったり、外の世界との人間関係だったり、食事そのものの意義だったり、そんなものが詰め込まれていて、色々考えさせられたり、ほんわかしたり、涙ぐんだり、穏やかだけど何かが心に残る良作。

スマスマでクサナギ君が「まさかこの映画で感動するとは」と言って堺さんに突っ込まれてたけど、本当にネタばれなしで観ると、そう感じるのは、まあわかる気がします。
なので、観る方はネタばれなしで!!

以下、色々ネタバレ込みで感想を。観てない方は映画をぜひ先に!!
DVDはこちら→南極料理人





なによりも、「描きすぎない」ところがすごい絶妙なサジ加減。

例えば、西村君の家族との関係性。
一見妻子からちょっとバカにされながら、1年間南極行っていなくても大丈夫、的な扱いを受けているけれど、その実それは彼女たちの強がりだったり、仕事に送り出す姿勢だったりする。だけど、それをことさらに西村君に強調してない、一切。
けれど、映画の視聴者には、妻子が内緒で南極との交信イベントに参加していて、娘がお父さんと話して喜んでいるとか、お母さんが寂しがってるとか、見せる。けど、任務を終えて戻った西村君に、そのことを説明することもないし、西村君への扱いは以前と変わらないまま。
同じように、西村君の方も、南極で娘の歯をなくして落ち込みまくったこととか、そのせいで仲間が適当に作ったから揚げが、以前西村君が文句をつけた奥さんの作ったから揚げに似てて泣いちゃったこととか、言わない。
言わなくても、彼らの心境は少し変化してるし、それはいい変化。

ラスト、南極から戻った西村君の普通すぎる日常の中で、でも、ファーストフードのハンバーガーですら家族と食べると美味しいんだな、とか、帰ってきても、娘の誕生日のために大勢の人数の料理を作る羽目になるんだな、とか。逆に、娘の誕生日イベントにちゃんと参加させてもらえるんだな、とか、当たり前のようでいて色んな発見がある。

南極での日常は、少しずつ説明されながら、中心は台所と食卓。
食卓での食事風景には個々のキャラクターが反映されているし、みんなが食べている様子を見つめて驚いてる西村君も面白い。

ただ「食べる」ということに、これだけ色んなものが反映するんだ、という発見。
そして、冷静にみんなに対応している西村君だけど、少し感情を見せる時もある。
誕生日に何が食べたいか、リサーチしていたら「南極にご飯を食べに来てるんじゃない」と言われたこと。
ポーカーフェイスだけど、部屋を出て、壁を蹴飛ばす西村君。だって、「ご飯を食べに来てるんじゃない」というその「ご飯」を「作る」ために彼は南極に来たのだから。怒って当然。
だけど、その怒りは、後に西村君がストライキをした時、みんながお腹が空いて必至になっている姿でちゃんと回収される。そう、ご飯を食べて、お腹が満たされて、健康でなければ、研究や観測のような「目的」のために動くことも出来ないのだから。食事は全ての源。

それと、西村君の仕事に対する姿勢もステキだった。
彼の行動は「美味しいものを食べて喜んでもらいたい」ということに終始してた。
ちゃんと栄養やバランスを考えて丁寧に作る冒頭。それをみんな勝手にアレンジして、忙しなく勢い良く食べる様子に眼を丸くしたり。
伊勢えびが見つかったときも、普通なら刺身だ、と主張してもみんなが「エビフライ」を期待しているというから、エビフライにしたり。
ラーメンが食べたい、という隊長たちのために、ラーメンが作れるかもしれないことを知ったら一目散に作りに走ったり。
あのラーメンのエピはほんとにいいエピ。単にラーメン作って食べただけなのにね、不思議。そして観てる人は絶対ラーメンを食べたくなる。

食事も一つの手段として、コミュニケーションにも色々な発見が。
それは、単に「電話」一つとって見ても、色々なコミュニケーションがあって。その電話が縁で、ラストに交換手の彼女が出てきた時はほっこりした。
観測隊員それぞれのコミュニケーション手段も、面白い。それぞれ個性があって、たまには喧嘩したり、いじりあったり、文句言ったりしながら、コミュニケーションを取っている。
そこに正解はないし、別に結論もないけど、全員ちゃんと無事に帰還する、それが淡々と描かれている。

とにかく特に事件も起こらないのにこれだけ面白くて飽きさせない映画、いい映画に出会いました。

by yopiko0412 | 2010-10-11 00:51 | 映画  

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