『ひばり』

2007/2/15-19:00開演 シアターコクーン

2月たった1回の観劇が、こちらでした。蜷川幸雄×松たか子×橋本さとし、でジャンヌダルクの物語。といってもジャンヌダルクの話はほんとーに触りしか知らなかったんですが・・・さらには宗教論争なんかも基本的にわからないんですが・・・その部分について100%理解したかと言われると「・・・」ですが、それを抜きにしてもなんだかスゴイモノを観たのです。




舞台は、裁判所。ジャンヌは捕らわれ、異端裁判にかけられているが、司教の命により、彼女は判決を前にして自分の半生を「演じる」ことになる。故郷で家族と暮らした少女時代、大天使ミカエルの声を聞き、フランス王国を救えというお告げを受けたこと、その後お告げに従い男装し、シャルル7世に謁見し、軍を率いる許可を得、オルレアンを奪還、シャルル7世をフランス王として戴冠させたこと、そして全てが終った後の、民衆の、シャルル7世の裏切り、教会からの反発。それらを演じながら、時として司教や検事、イギリス伯爵、異端裁判所の司教に尋問されるジャンヌ。
純粋で信仰に厚いジャンヌだが、その言動は誰からも理解されず、彼女の素直な、そして突拍子も無い言葉はキリスト教社会にとっては脅威となる。悪魔の声に耳を傾けた魔女として火刑に処せられるか、異端否認をし、教会に全てを委ね、従順に、その命を永らえるか。彼女に突きつけられた選択肢は、彼女の信仰を引き裂くものだった。


まず面白いというか、斬新だなと思ったのは、この脚本の手法。裁判所で、その半生を演じる、というのは、劇中劇としても結構珍しいシチュエーションだなと。そして、だらだらと半生を表現するのではなく、キーとなる部分を、くっきりと浮かび上がらせて、1シーンとして成立させていること。そのシーンが終ると、次はもう時間も場所も飛び越えた、違うシーンになってるわけです。
一番びっくりしたのは、1幕終わりから2幕幕開けの間に、もうあっという間にジャンヌの活躍は終っていて、彼女は捉えられてしまったこと!!えぇ?!と思いつつ、彼女の人生のターニングポイントとしては、シャルルに認めさせた時点で勝利は確定していて、その後の裏切りが次のターニングポイントだからいいのか・・・とある意味納得していたら、最後の最後に、火刑の途中で「まだ戴冠式をやっていない!」という声で戴冠式の場面に戻り、そこで舞台が幕を閉じた。この倒置法のような手法が、秀逸。残酷な火刑を最期まで表現せず、さらには観劇というハレの事柄の最後を、ハレの場面で終らせるという意味もあったのかと思ったりして、なかなか心憎い。


そして、こんなある意味場面転換の多い戯曲を表現した舞台美術と照明がこれまた素晴らしかった!!
蜷川さんの舞台は今や、堀尾さんの美術と原田さんの照明なくしては成立しないんじゃないかなあ。(新感線も同じく。)もちろん、蜷川さんのイメージを形にしているわけで、蜷川さんの演出プランありきなんだけど、その恐らく恐ろしく高いハードルを、きっちり乗り越えて具現化してしまうからこそ、2階から観てあれほど美しい舞台ができあがる。

基本的に舞台の転換はなく、裁判所の四角い灰色の舞台を、小道具と役者と照明が様々な世界へ変化させる。中2階からだと左右の大きな絵画を両方見る事が出来なかったのが本当に残念・・・。舞台中央の十字架からは、時に強く白い光が、時に真っ赤な炎が覗き、教会が掲げる神の力と、人間が作り出す戦火を表現していたよう。

クライマックス直前のジャンヌが幽閉される牢獄の表現が本当にかっこよかった。床から天井に強く伸びる光の筋が、あたかも牢獄の鉄格子のよう。もちろん四角の舞台の形のままにそれがあるので、平面的ではなくとても立体的。この部分は中2階や2階から見るとますます立体感があったんじゃないかな。

戴冠式の場面では舞台上から劇場の壁にまで伸びた照明が厳かな儀式が執り行われたであろう王宮(または教会)の内装を表現し、まさに戴冠の時は、ステンドグラスを思わせる床面の照明が本当にすばらしかった。誇らしく旗持ちて立つジャンヌの後で、真っ赤な十字架が光を放つこの幕切れは、ハレの場だけれどもそれだけではない、蜷川さんらしい問題提起だったのかもしれない。


役者陣も、膨大な量の台詞、最小限の舞台装置と小道具だけでの演技、そして基本的にほぼ全編に渡って舞台上に「存在している」という過酷な状況(NODA・MAPで野田秀樹もやってた手法)でそれぞれ見せてくれた。

ジャンヌの松たか子さんは、今までにも思っていたけど、本当に声が良く通る、そして強い。か細い声で発した台詞(クライマックス直前の「陛下・・・」など)も、きちんと劇場中に聞こえているのがすごい。今回、少女時代の声と、捉えられてからの声の声色を変えていたし、その上大天使ミカエルの声も瞬時に使い分けていて、しかも台詞はもちろん彼女が一番多く、難解。
言葉巧みに他者の思考を操る場面では、リズム良く、テンポ良く、緩急の付いた台詞回しで、相手との間もちょうど良かった。言葉巧みに・・・で思い出したけど、内容と方向性の違いはあれども、お兄様と同じような「言葉で相手を意のままに」な役柄ですね(笑)
で、演技も体当たりなんですが、眼を見張ったのが、序盤、男の衣装を手に入れ、シャルル7世に会わせてもらうため、領主の城に行った場面。衣装のフード付きパーカーのフードの部分を掴み上げることで、首から吊るされていることになっているのですが、ここでの松さんの演技がものすごかった!吊り上げられてるわけだから、足は地面に着くか着かないか、すれすれの爪先立ち、もちろん膝に力は入らず、身体の自由も奪われていて、手でバランスを取り、さらには首を絞められているかの如く苦しそうに膨大な台詞をこなす。もちろん本当に首から吊らされているわけではないので、彼女の身体能力の高さが、そして台詞術の高さが如実に顕れていたと思う。圧巻でした。

裁判をリードする司教の益岡徹さんは・・・TVで見るときも感じてはいましたが、舞台だとますます滑舌の悪さが気になりました。声も、ちょっとこもっているような、通りにくい声なのでなおさら。席が下手中2階だったせいもありますが、ほとんど後ろ向きに発声されていたので聞こえないストレスが大きかった・・・。

イギリス貴族で、この裁判を政治的に利用したいだけの伯爵に、橋本さとし。正直あんまり出番が無い(ずっと舞台にはいますが、当事者ではない)と思っていたら、最後の最後にジャンヌとの丁々発止!それにしてもあの深いグリーンのマント姿にバラ(かな?)の花一輪の出で立ちが似合ってて面白かったです(笑)
こちらはさすがに声の通りもよく、それだけにもっと出番を!とも思ってしまいましたが、さとしさん御本人のインタビューや『噂の男』の時のキャストからのいじられ方なんかを見てるとあれくらいでちょうどいいのかと(爆)

あと、目を引いたのが、シャルル7世の愛人アニエス。誰がやってるのかわからなかったのですが、終演後にパンフ見たら小島聖さんでした。そういえばキャストに名前あったなーなんて思ったり。前にもなんかで見てたはずですが、今回は印象を強く残す役どころで、しかもそれをきっちりこなしてて、良かったです。
あとは、異端裁判所の司教役の方の声が朗々としてらして、とても聞き心地が良かった♪ま、言ってる台詞は難解だし気持ちのいい内容でもないんですけどね(汗)

シャルル7世の山崎一さんは、舞台では初かもしれません。ある意味ステレオタイプな小者シャルルっぷりを発揮してましたが、ジャンヌを裏切ってからの、吹っ切れた政治家への変貌が面白かった。この人も伯爵と同じで、ジャンヌを政治的に利用し、そして裏切り行為さえ政治的に正当化させてしまったわけで、宗教なんかなんとも思ってない訳です。

キリスト教に詳しいわけでもないし、ましてや教会の権威を守る為の(ある意味政治的な)宗教論争なんて全部理解する方が無理かと。司教の想い、異端裁判官の想い、ジャンヌを悪魔の声を聞いた魔女としたい判事の想い、全部同じキリスト教についての想いなのに、ちょっとずつ違うんですね。
そして形式的に「神に従う」ということを「認めさせる」ことが最重要課題であった彼らと、神の言葉に、文字通り従ってきたと主張するジャンヌの言葉が相容れるはずもなく。でも、ジャンヌの意見が正しいかどうかはわかりませんが、共感はできます。そして、彼女が頑なに男装しているということの「本当の」意味、男装を「異端の証し」とする宗教家たち、彼らにその本当の意味を明かす場面は、時代や宗教には関係なく、いつの時代も、どんな場所でも女性に突きつけられる現実を表しているようで、胸が締め付けられる思いでした。

ちなみに、この日は収録カメラも入っていた公演でしたが、ハプニングがありました!!
1幕で、シャルル7世に謁見に来たジャンヌを騙すつもりで群集に紛れ込んでいたシャルルがあっさりジャンヌに見つかって追い掛け回される場面、客席通路を通るのですが、途中で思いっきりシャルルのかつらが落ちた!!いえ、山崎さんが自分の手でばさっと落としたようにも見えたので、そういう演出かとも錯覚しましたが、「かつらが!かつらが!」と叫びながら芝居を止め、かつらを必死で被り直すシャルル・・・その間ジャンヌ松さんはちょうど正面だったカメラに向けて「映さないで!」と言わんばかりに手をかざしてました。で、かつらを無事被り終えたシャルルがジャンヌに「大丈夫!」と言って芝居再開。あー面白かった&びっくりした。
・・・・・ということを書いていて、でもふと気になったのでぐぐってみたらば・・・なんだぁ、やっぱりあれ、演出だったそうで!!どうも山崎さんが自分でかつらを落としたように見えたと思ったら!まんまと騙されました(汗)自分の感想書くのにあんまり他の文章を目にすると自分の言葉にならないので、今の今まで騙されてました~。

とにかく、とても長い、そして基本的に台詞劇なので非常に集中力を必要としましたが、途切れさせることも無く、圧巻の舞台でした。WOWOW放送を待ちます。
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by yopiko0412 | 2007-02-21 01:48 | 演劇  

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