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NODA・MAP『贋作・罪と罰』(キャスト・演出など)

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この記事はキャストと演出について。




松たか子(三条英)
冒頭、いきなりがなりたてるような喋り方でまくしたてられて、ずっとこの調子なのかとびっくりした。まあ後から考えればあの時点から英の計画は決まっていたのだから、その高揚のためか、と捉えることもできるけれど、全体的にずーっと気張った喋り方だったのが気になったなあ。キャラのせいもあるんでしょうけど。
だから、ラストのモノローグで柔らかい喋り方になったときはほっとした。あのシーンはシーン全体がもういちいち残酷な美しさだったからすごい。
全体的にかなりのパワーを使う役じゃないだろうか。冒頭のきっかけの殺人シーンなんて、見えないのに!ずーっと緊張の糸がぴんと張った状態の役だから、最後に力尽きたように言う「私が間違っていたら、許してね」を境目として、その糸が切れたのが良く分かった。

古田新太(才谷梅太郎)
やっぱすごいよ、古田さん!前半は面白シーンもあり、あの台詞量の中で遊ぶ古田さんに笑い、でも笑いから芝居に転じる、あの一瞬の切換が心地よかった。野田さんとも『走れメルス』の時同様、自由に遊んでたし(笑)
英との対峙、英への最後の言葉が、あまりにも優しさに満ちていて、「~しなさい」という独特の台詞回しも浮くことなく、あの才谷は神々しく感じた。そういえば、前半の笑いシーンで「お前もたまには笑えよ!」と英に言っていたけれど、あれはアドリブに笑えという意味ではなく、単純に才谷から英への優しさだったのだな、と。それが、ちょうど芝居として笑いシーンとくっつけてあることが心憎い・・・。
英のモノローグの背景での暗殺されるシーン、あんな見せ方もあるのね・・・てこれは演出の話だけれど、古田さんの才谷が、英の理解者であり、彼女を愛していた者として存在していたからこそ、あのシーンに意味があるんだと思う。
一つ難点は、声が多少こもりやすいこと。変則舞台で、向こう側の客席に向かって台詞を言われるとこちら側には聞き取りにくいのだ。でもそんなこと抜きにして、大人の、かっこいい男だった!

野田秀樹(英の母、徳川慶喜、老婆)
この方、舞台では女役が多いんでしょうか?赤鬼ではあれは性別があったのか・・・でも「あの女」との接し方を考えるとあれは男性だったんだろうけど。
去年の『走れメルス』でもそうだったけど、この人はほんとに変幻自在。ものすごい声色を使ってるけど、喉大丈夫だろうか?でもあのしゃがれまくしたて声も時として聞こえにくいのがもったいない。身のこなしやなんかは相変わらず元気いっぱい(笑)
徳川慶喜はなんだかちょっとおばちゃん風だったのは英の母の役からそのまま移行したから?お金と権力に執着する英の母の一面を残しながら、権力の頂点であり、竜馬から大金を貢がれ大政奉還する将軍、を演じるところが一種の皮肉なんだろうな。

段田安則(都司之助)
前の記事であまり触れていないけど、英を冷静に、じわじわと追い詰める捜査官、かなりはまり役だったんでは。都という人物自体は、とてもわかりやすい。自分の仕事をきっちり全うするタイプ。英のこともそうだし、ええじゃないか運動への対応も、敵から情報を得てはいるけど、目的は暴動を抑えること。
段田さんは硬軟どちらもできる役者さんで、やっぱり好きだな~。声がまたいい!この方の声が一番クリアで無理が無く声張ってるとは感じさせなかった。

ぴかりん・・・もとい、宇梶さん、でかい!そしてこちらも声にインパクトがある!あの長身で、あの衣装を着こなし、あんな不気味な顔(マスク?)されたら威圧感すごいです。役的にもダークにダークになっていくんだけど、そんな中で弱さも見せる、そんな微妙な演技が印象的。また舞台で宇梶さんを観たくなりました。
あとは、妹の智役の美波さん、なにやら次は蜷川演出だそうで・・・すごいな。古田さん(ヤクルトのPMの方ね)も絶賛してたけど、確かに溜水とのやり取りはかなりのものだった。しかし謳い文句が「10代女性のカリスマモデル」ってのはなんかイヤ・・・野田演出、蜷川演出で色んな共演者にも恵まれるし、妙な謳い文句がいらないくらいに、演技に幅をつけていって欲しい。て偉そうかな(^o^;
それと、右近さん!真面目な、妙な化粧もしてなければ妙な衣装でもない、そして妙な台詞も無い、ほんとにふつーに演技してる右近さん(爆)いや、結構珍しいと思っただけですが・・・出てきた瞬間に「お、右近さんだ」と思っただけで、観てる間はそんなこと気にならなかった。
英の父役の中村まことさんもものすごく感情の振り幅の大きな役。英たち母娘3人に大きく影響を与え、また彼らの運命も自分の運命も大きな渦の中に巻き込まれていく。時代に抗いきれない幕末の男の悲哀をちょっと軽いトーンで演るから、余計にそれが哀しさを際立たせてくれた。

演出、この舞台演出の力がかなり大きかった。というか、見せ方がすごい。
舞台は客席の真中に作り、対面客席。赤鬼の時もそうだったけど、そうしてどこから観ても成立する舞台ってものすごく空間を上手く使えるし、想像力も要求される。しかも役者は舞台から降りても、舞台脇の椅子に座ってほぼ終始、客席から見える位置にいる。その緊張感ってどれほどのものなんだろう?そこに座っている時も、舞台の登場人物が座っていると考えると、自分が現場にはいない出来事を、ちょっと離れた位置から見ている、つまり彼らはその出来事を間接的にでも知りえた状況であることを表現しているのかな、とも思った。(うーん、意味わかりづらいですね・・・。)

舞台セットというほどのセットは無く、椅子や電気の入った光る棒を役者が場面に合わせて動かして様々な情景を作り出す。このやり方は野田秀樹の得意なやり方なのかな?私が観た数少ない野田演出の舞台でも、こういうセットの使い方は印象に残ってる。(特に赤鬼!)そして、客席と舞台の間を自在に仕切る薄い紗幕のカーテンが非常に効果的に使われていた。
カーテンは、場面転換の時に左右に動くだけで充分にカット割の役割をしていたし、なんといっても冒頭の英の殺人シーンを敢えて見せない演出がすごかった!カーテンの向こうで老婆の叫び声と英の振るう斧の音、興奮した英の息遣いだけが聞こえ、カーテンが開くともうさっきまで生きていた老婆は倒れている。あとは、英の父の葬式の場面、カーテンのこちら側は葬式、向こう側では溜水と英の父との裏の会話、とカーテン1枚で二つの場面を区切り、最後はそのカーテンを持ち上げて人が動くだけで場面が一つに重なる。いちいち、見せ方にしてやられた。

面白かったのが、キャスター付きの椅子の使い方。それまで使っていた木の安定感のある四角い椅子とは別に出てきた黄色のキャスター付きの椅子がそのまま「馬」の役割を果たしてた!椅子に逆向きに座って、舞台の端にあるスロープをすーっと転がって移動する、それはまさに馬に跨って移動している様子を現しているんだ、て気付くと「そんなやり方が!」とびっくりした。

そして、ラスト、才谷の暗殺シーンは、ぷちぷちシート(緩衝材の、あれ。)を舞台に敷き詰め、その下で暗殺劇が行われる演出。透けて見えているけれど、でもシートの下にいて良く見えない二人、いよいよとどめの一撃、という刀だけがシートの下から表に現われる。ある一点への観客のフォーカスの集め方、なんだろうか。

とにかく、観る側の観客にこれでもかというほど「想像力」が要求される。セットの使い方にしろ、カーテンの使い方にしろ、観る人によって頭の中で描く場面は十人十色になる。豪華に、どーんというセットも眼に楽しいけれど、こういう刺激的な見せ方も大好き♪ただ受身で観る演劇ではない、自分の想像力で補完しながら観る、ある種観客に観方を一任されているような、受身では済まされない演出にも十分楽しませてもらったなあ。

by yopiko0412 | 2006-01-19 00:56 | 演劇  

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