人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『夢の仲蔵千本桜』

2005/10/9-17:00開演 日生劇場

観る予定ではなかったのですが、思いがけず観劇しましたが・・・これ良かったです!

松本幸四郎さん・市川染五郎さん親子による「演劇としての歌舞伎」の取り組み。以前『新・夢の仲蔵』を観た事があったのですが、当時は本当に歌舞伎もろくに観たことのない(今もまだまだですが・・・)自分にはわかりづらかったりしたのですが、同じ仲蔵を軸としたお話だけど、こちらの方がストーリー性に富み、そしてエンターテイメント性もあり、また劇中の師弟の情感にもしてやられ、ということで、空席が目立つのがもったいない、と思ってしまいました。




舞台は、江戸の森田座という小屋の座長・中村仲蔵とその愛弟子此蔵を中心にした、「歌舞伎役者の舞台裏」であり、劇中劇では『義経千本桜』が上演されているという設定。表では華々しく上演している裏で、実は歌舞伎役者同士の陰謀が繰り広げられ、ついには楽屋での殺人事件が起こる・・・。殺されたのは役者、殺したのも役者、そんな中でも、舞台は上演しなければならない、役者の業。そしてなぜ殺さなければならなかったのか、そこにあるのは師弟を超えた、親子ともいえる強い絆。重厚な物語になってましたし、劇中劇として挿入されている『義経千本桜』のシーンが目にも鮮やかな、エンターテイメントを感じさせるもので、楽しめました。

大部屋役者から座長にまでなった仲蔵(幸四郎さん)とその弟子此蔵(染五郎さん)の師弟関係は本当に熱かったです。歌舞伎に関しては、座長としてなんとしても、何が起こっても、幕を開かなければという執念の仲蔵、そして師匠と同じ大部屋出身ながら、「もっといい役をやりたい」と切実に願う此蔵。どちらも役者狂い、「役者は狂わなければならない」という師匠の教えだったにも関わらず、座長という立場になったことで知らぬ間にしがらみに縛られ、守りに入ってしまった師匠を諌める此蔵の悲痛な叫び・・・最後、愛弟子の死に直面しながらも弟子の言葉をしっかり受け止め、堂々と舞台に上がる仲蔵という流れは涙モノでした。

そんな弟子の此蔵が、実は殺人を犯してたわけで。それも、元々は仲蔵のことを良く思わず、仲蔵を座長から引き摺り下ろすため裏で画策していた歌舞伎役者大吉。此蔵はそのことに気付き、問い詰めている中で、逆に自分と師匠仲蔵との因縁のことで追い詰められ、全ては師匠のため、芸のために、殺人を犯す。その殺害現場が、森田座の奈落の底、という設定で、殺人を犯した此蔵はすぐさま死体を隠して自分の出番のためにすっぽんを上がっていく・・・この役者根性というか、業の部分は、先述したように、弟子の死の直後に舞台に上がる仲蔵と対になった場面で、凄みを感じました。
ちなみにここ、身代わりを使った演出でしたが、自然だったのですっぽんから此蔵が上がって来て初めて「あ、あそこで入れ替わってたんだ!」と気付きました(汗)

劇中劇での大役「狐忠信」の役を此蔵が演じる一連のシーンは、歌舞伎の舞台を観ているのと同じで仕掛けが多く、楽しめる場面でしたね~。狐への早変わりには普通にびっくりして「わっ」と小声を出してしまいました(笑)そして狐のあのくるくる舞い!さらに、しゃがんだ体勢なのに手摺の上を危なげなく走る姿、そしてワイヤーを使ってのジャンプと、身体いっぱいでの表現に観客も沸いてました!最後は目玉の宙乗り!!
宙乗りがある、ということは聞いてしまってたんで、劇場に入るなりワイヤーが気になってたんですが、2本あるな・・・と思ってたら、そうくるとは!の身代わり。(あれ、身代わりされてたのはどなたなんだろう?身代わりの方もくるくる回ってた・・・。)花道上をワイヤーで宙乗りする染さん扮する此蔵扮する狐(ややこしい)が、ワイヤー1本なのに身体を動かし、ポーズを決め、ちょうど私の席の真上くらいの位置でこちらを見下ろしたその眼が印象的でした。かっこいい!!あの宙乗りに関しては、上の階の下手側で観ていればかなりの特等席だろうなあと羨ましかったです。

話はかなり前後しますが、此蔵の罪が露見し、役人に連れて行かれそうになる場面、「なんとか話をする時間を」と嘆願して仲蔵と此蔵の二人きりになった後のやり取りは、お二人の演技のぶつかり合いが劇中の師弟の強い絆をさらに強調するもので、涙が浮かびました。「お前を誰にも渡しはしない!」と叫ぶ仲蔵に、さっきまでは此蔵の殺人を咎めていたのに、理由を聞いて仲蔵の心境にも変化があったんだ、と感動。でも此蔵が刀を取り出したときは「まさか!」と思い、仲蔵が止めてくれると思ったら間に合わず、「森田座の畳の上で死ねる」と言う此蔵にも感動してしまいました。そして「もっと色んな役を演りたかった」と色々な役名を挙げていく此蔵・・・ここ、もっと歌舞伎に詳しかったら想像できたんだろうなあと思うと悔しかったですね。

幸四郎さんの仲蔵はどちらかというと静の役、対して染五郎さんの此蔵は動の役、という対比があり、またどちらも相手よりでしゃばらず、また引けをとらないバランスで素晴らしかったです。

そしてもう一つ、舞台装置が、素晴らしかった!!
左右に前後に舞台を動かして劇中劇の歌舞伎をすばやく登場させ、せりも前後2列になっていて、その上に楽屋の1階と2階が、部屋の中と廊下が、きちんとリアルに作られていて、階段を上って演技する。そして2階だけ見せたいときは2階部分でせりを止める、本当に立体感があって、臨場感のある舞台セットでした。各楽屋の様子も人それぞれで違っていたり、名前入りの暖簾がかかっていたり、細かいところも楽しめました♪

こうなると、『義経千本桜』を通し狂言で観たくなります~。是非、歌舞伎座で!
というように、歌舞伎に興味を持つのにもいいでしょうし、色々御存知の方は、だからこそ、の楽しみ方もあると思います。まだ松竹のチケットWEBでも空席があるようでもったいない・・・。

by yopiko0412 | 2005-10-20 16:54 | 歌舞伎  

<< 「歴史小説」の中の「史実」 芸術祭十月大歌舞伎:昼の部 >>