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『モーツァルト!』(ストーリー編)

2005/8/13-17:45開演 帝国劇場

ヴォルフガング:中川晃教
アマデ:川綱治加来

人気の演目ですが、相変わらず初見です。そしてこれしかチケット取ってないことを悔やむのも相変わらずだったりします。井上君バージョンを激しく観たい・・・。

モーツァルトの生涯については、虚実入り混ぜではあるけどかなり有名な話だし、様々な形でドラマティックに取り上げられてきたもので、当たり前ですがそれぞれアプローチが違うんですよね。
私はやはり松本幸四郎・市川染五郎による『アマデウス』が強烈な印象。あの作品はサリエリが主人公とも言える形式で、サリエリ目線から描かれたモーツァルトであり、「才能」をモチーフにしたサリエリとモーツァルトのライバル関係(一方的な)が主軸となっていたけど、帝劇の『モーツァルト!』は「才能」をモチーフにした色々な「愛」の話。
この作品の特徴はやっぱり「アマデ」の存在。ヴォルフガングの「才能」の部分を投影した、もう一人のヴォルフ。アマデはひたすらに「才能を活かす」ことだけを考え、ヴォルフガングは「音楽を軸にして、人間として、自由に生きる」ことを考える。そんなヴォルフガング(含むアマデ)をそれぞれの視点で愛する人、利用する人、そして才能という呪縛と戦うモーツァルトの物語。




【モーツァルト一家の愛】
息子に夢を託した父と、父に認められたい息子、そして弟に夢を託した姉の3人の愛。あ、もう一人、母親もいたけど、彼女の意思はこの舞台には登場しなかった。
レオポルトは、「私は天才を作った」と何度も口にする。それはヴォルフガングではなくアマデだけを指していることになる。でもレオポルトは彼なりに息子を愛しているつもりだったのかなあと。自分が成し遂げられなかった夢を息子の才能の中に見つけ、自分の思い=息子の望みだと錯覚した、だから自分の思い通りにならない息子に憤り、そんな息子が自分の敷いたレール以外の方法で成功を得ることを素直に受け入れることができなかった。それでも、見捨てることができなかったから、彼の才能を愛していたから、お金を送り続け、ウィーンまで迎えにも行った。(でも、最後に「レクイエム」の作曲を依頼に来た死神はレオポルトなんだよね・・・これ何を暗示しているのかな。)
そんな父の想いを理解できないヴォルフは、自分の才能は、階級など超えていると信じていた。彼は彼で自分の才能を活かしたかったんだけど、父の方法はあくまでも「現実の枠の中で」活かす方法であり、ヴォルフはそれを受け入れることができなかった。そして同時に彼は「人間愛」に餓えていたのかなと思う。子供の頃は「神童」としてもてはやされたが、成長すると見向きもされない現実、父からは才能のみを愛されているという現実、コロレド大司教からも人間扱いされない現実、それが彼にとっては「自分を愛してくれる人が欲しい」という強い思いに繋がり、「自分に向けられる、彼の才能が目当ての見せ掛けの愛情」を本物と感じ、また逆にどんな人間でも自分から愛していこうとするようになった。だから騙されやすい、扱いやすい存在になってしまったのかと。
ナンネールは、自己犠牲の人ですね。というか、なんとなくこの人に関して「共依存」のイメージが浮かびましたが。レオポルトはナンネールもまた「天才」だと言った。子供の頃はそれでいいだろうけど、この時代の女性は才能を活かすなんて道はなかった。だから彼女の才能は父から愛されるものではなかった。そしてナンネールはヴォルフの才能に、ヴォルフの成功に自分の才能と成功を投影して、彼を支えることに徹した。父の言うこともわかるし、ヴォルフの望みもわかる、その望みが叶えば、自分の望みも叶うからこそ、送り出したのに、彼はナンネールのそんな気持ちに気付かず、彼女の望みを叶えることはできなかった。徐々にヴォルフへの信頼や希望を失っていくナンネールは、痛々しかった。そしてそれが爆発したのが「家族を捨てた」という言葉なんだろうなと。

【ヴォルフガングとコンスタンツェの愛】
えーとこの2人の愛が一番わかりずらかったんですが・・・(汗)
というか、1幕冒頭から時折でてくる墓のシーンから察するに、この作品ではモーツァルトの墓荒らし、彼の遺骨さえなくなっていた事実の責任がコンスタンツェにあることになってますね・・・すごいな。
ヴォルフが「万人を愛そうとした」のはわかるし、だからウェーバー家のアロイジア(かな?変な名前)にもあっさり引っかかりそうになったのはまあいい。でも、コンスタンツェがヴォルフに興味を持ったのはなぜ?才能がどうとかいうよりも、一目ぼれに近く感じられたけど、よくわからない。そして再会した二人が急速に愛情を示したのもよくわからない。その後のナンバーで、彼女は自分の存在がヴォルフのインスピレーションの助けになると歌ってる。てことは彼女も自分の存在意義を彼の才能、彼の成功に求めたのかも。それでコンスタンツェとナンネールは対立的に描かれたんだと考えれば説明が付く。
ヴォルフは「彼女は家族にもいじめられて耐えていて、かわいそうなんだ、守ってあげなくちゃ」的なことを言ってて、「ダンスは止められない」でコンスタンツェが「本当は引っ込み思案な私」と言っていたけど、どうもしっくりこない、つまりコンスタンツェの性格が伝わってこなかった。そして、結婚生活でヴォルフのことが見えなくなっている過程があんまりなかった気がする。だから「ダンスは止められない」がものすごく唐突に感じました。ま、そもそもコンスタンツェの歌唱力に問題があるような・・・(汗)
ただ、1箇所だけ2人の愛情を感じたのは、帰ってこないヴォルフのことを嘆いているところに、ヴォルフが入ってきて、ていうシーン。あそこは、ヴォルフのコンスタンツェへの気遣いを感じられたし、「乾杯する?それともキス?」て言ったのに抱きしめにきたヴォルフをちょっとよけて、それから2人で愛を確認する、あの一瞬の駆け引きはよかった。
でもそれまでの過程とあんまりつながってなかったから浮いてしまった気もするけど・・・残念。

【コロレド大司教の執着】
この人は、人間と音楽(や、様々な才能)への執着心がすごかった。ヴォルフの才能、彼の音楽のことは認めていたんだけど、ただ、音楽は人間の(というか社会の)枠を超えないという絶対的大前提が彼にはあって。だから、階級に関係なく存在する「天才」の才能を解明しようとしてきたんじゃないかな。脳のコレクターってのはものすごい表現だけど、ヴォルフの才能を見せ付けられればられるほど、その才能への執着が強くなり、そしてそんな才能を持った人間が自分に屈しないことが耐えられなかった。
ある意味、偏執的な愛情だったといえなくもない。

【ヴァルトシュテッテン男爵夫人の期待】
この人は、ヴォルフの才能をかっていたし、その才能を広めようとした。だけどヴォルフの本当に望んでいることは理解できていなかったと思う。表面的な「成功」を与えることはできたけど、結局彼の望む愛情は与えることができなかった、というかそんなこと考えてなかったんだろうな。「星から降る金」は才能(アマデ)を伸ばそうとするとってもやさしい曲にも聞こえるし、ある意味、人間性(ヴォルフ)の本質を伸ばそうとしているわけじゃない、一方的な曲かもしれない。というのは観劇後に落ち着いてから考えた感想ですが。観劇中は普通に包み込むような愛情の曲だと思って感動してたもの(笑)

【シカネーダーの存在】
出てくるだけで楽しい人、ですが(笑)その存在は実は結構重要ですよね、ヴォルフとアマデにとって。彼は宮廷音楽なんかじゃない、庶民のための「エンターテイメント」を追及する人で、ヴォルフとアマデにその才能を発揮する場を与えた。彼は純粋にヴォルフガングの才能を認めていたし、「人生を楽しむ」ための視野を広げさせてくれた。ちょっとヴォルフにとっては誘惑の多い世界だったけど、ナンネールに送るお金だからダメ、と言ったヴォルフに友達甲斐がないといいつつも「今日のところは見逃してやる」と言ってくれてたのも優しさかなと。
革命の波に乗り、庶民のためのオペラ『魔笛』を書き、作曲を依頼したときのヴォルフとアマデの嬉しそうな笑顔が、彼がヴォルフガングにとって無くてはならない人だったんだな、と思わせられた。


ヴォルフは、アマデという才能があるからこそヴォルフであり、またその才能が彼自身を苦しめている存在でもあった。時にはアマデと共に音楽を奏で、時にアマデに反発して自由に生き、そしてアマデの存在に徐々に狂っていくヴォルフ。才能が、彼のアイデンティティであり、自分を束縛しているものでもあるなんて、皮肉で哀しい。でも、だからこそ出会えた人々がいるし、だからこそ「音楽を作る喜び」があったし、その音楽で人々を喜ばすこともできた。アメとムチじゃないけど、太陽があるから影があるというか・・・うーん、いい言葉が浮かばない・・・。
そんなヴォルフは、アマデに自分を殺させたことでアマデと初めて一つになれたのかな、と感じました。ナンネールが亡くなっているヴォルフを見つけ、その傍にあった「才能の箱」を開いた瞬間、才能があふれ出てきて、ていうところが、魂の浄化じゃないけど、アマデが、ヴォルフと一緒に自由になったのかなと。
あ、そう考えると、レクイエムを依頼に来た死神も、こうなることを予見していたというか、ヴォルフとアマデを解放するために存在したのかなと思える。ならば、あの死神がレオポルトなのも納得できるかな。まあ、単に死神がヴォルフを惑わせるためにレオポルトの姿かたちをとった、ということかもしれないけど(笑)

ストーリーについては一度しか観てないので、観劇中に受けた印象と、あとから色々考えてでてきたことでしかないんですが、もう一度観たいなあ・・・。
あとは、個々の役者さんたちについてですが、長いので分けます(汗)

by yopiko0412 | 2005-08-17 15:54 | ミュージカル  

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