『ヘンリー6世』

2010/3/27-13:00開演 さいたま芸術劇場

最近多くなった長時間の戯曲の舞台化。リチャード3世の前の時代の歴史物語、ということは相当登場人物が多く、複雑で大変そう。去年の新国立バージョンは見送ったので、予習はなんとなくwikiで読んだだけ、という状態での観劇。大丈夫だろうか、自分、とちょっと心配でしたが、結果的には大満足(お尻は痛い)の観劇となりました。




前半は100年戦争がメインで、イギリスとフランスの攻防にジャンヌ・ダルクも登場しての戦い。その最中にも、イギリス国内では権力を巡る戦いの序章が起こってる。その一方で勇猛果敢な武将の見事な戦いぶりと敗戦の様が印象的。
後半はイギリスの内紛、ランカスター王家とヨーク公との王権を巡る争いに諸侯たちも巻き込まれ、陰謀と裏切りと忠誠と親子の情が絡み合う壮絶な王冠の行き来と、命のやりとり。

壮大すぎてどうやって書いたらいいので思いつくままに書きますが、それぞれ見せ場がありますが、特に印象的だったのはヨーク公とグロスター卿、ウォリック伯などのおじさま方。
若手だと、前半はサフォーク伯の池内さんが、腹の据わった演技で魅せてくれました。が、サフォークとマーガレットの別れの場面はあれ不倫なんだけど・・・と思うと不思議な雰囲気。政治的な意味だけではなく、彼らは本当の意味で愛し合っていた、という解釈でいいのかしら?
後半はヨーク公の3人の息子たちが生き生きと動き回り、後のリチャード3世はその行く末を思わせる凄みもあった。エドワードはいい意味で長男らしいノーブルな印象で、長谷川さんの雰囲気とぴったり。クラレンス公ジョージの心変わりは、あまりにもころっとだったのでちょっと分かりにくかったかなあ。
というか、この作品、みんなよく忠誠を誓う上に、さっさとそれを破っちゃうし、誓われる側も、ついさっき裏切られたばっかりなのに意外とやすやすとまた信じて受け入れちゃったりしてて、これほど「忠誠」が軽く見えるものか、という(笑)しかも戯曲自体も長いものをばっさりカットしてるらしいし、時間の経過もあっという間だからそれがかえって滑稽にも感じられる。

滑稽といえば、時折滑稽なシーンや台詞の応酬もあり。まさに、ころっと心変わりの手のひら返しのシーンでは大竹さんの演技のおかしみもあり、面白かった。権力争いが嫌い、戦争も嫌い、な頼りないヘンリー6世に容赦なく辛らつな言葉を投げかけ、「あなたがいない方が勝てるんです」とか言っちゃうマーガレットも、強くてたくましくてどこか可笑しい。
ただ、後半、ヘンリーが世を嘆く独白のシーンで、登場したときから足元がおぼつかず、妻や諸侯からも酷い言われようであり、自分でも自分の不甲斐無さを嘆くんだけど、そこでも客席がやたらと笑っていて、しかもヘンリーが足元に蹴躓いてしまうと爆笑の中から小さな声で「頑張って!」と声が飛んだのはびっくり・・・ここ、そんな笑うシーンじゃないと思ったのです。どちらかというと、ヘンリーの持つ苦しみだったり、力不足を嘆くことだったり、だけど彼には彼なりの信念があるんだ、という、きちんとヘンリーの本質を描いているシーンだと思ったので、残念。
独白後に、ランカスター家とヨーク家に分かれてしまった市民が、子が親を殺し、親が子を殺してしまうシーンをヘンリーが見つけ、3者が嘆くシーンは、争いが無駄であることを痛烈に描いていて、印象的でした。いまだ戦いを続ける仲間へ、勝手に戦えばいい、おれは自分の手で息子を殺してしまったんだ、もううんざりだ、というような台詞を投げかける父親が、痛々しかった。

パンフレットでも言及されていたけれど、この戯曲には様々な形の親子が登場していて、その関係性がそれぞれ違っていて、見所になっていた。どんなに冷徹に権力を追い求める父親も、息子には無上の愛を注いでいたり。息子を生かしたい父親と、父親を一人で死なせたくない息子の親子愛。自分の王位を保障する代わりに息子の王権を奪ってしまうけれど、実はそこには王位に就くことが幸せなことだろうか、という自戒を込めた息子への愛情も忍ばせていたヘンリー。

後編は特に面白くて、展開も速いし登場人物もあっちへ流れこっちへ流れ、で難解だけれど、後編になるとリチャード3世の登場人物も多いので、あっちを知ってると理解がしやすかったりしました。そう、リチャード3世でわかりにくい、ヨーク兄弟の確執とか、諸侯の処遇とか、逆に言えばヘンリー6世を見たことでクリアになりました。そして一番不明だったマーガレットとエリザベスの立ち位置とか、意味が、本当に明確になって、さらにはアンのこともちょこっと示唆されてたり、後のリッチモンドの件にも触れていたり、と、後編見ながらなるほどなるほど、とどんどん理解が深まった感じ。
今、まさに今この状態でリチャード3世を見たいんですけれど(笑)

そして理解を大いに助けてくれたもう一つは、演出。
赤い薔薇、白い薔薇、白百合、の花が、ランカスター家、ヨーク家、フランスを象徴し、それぞれの場面でぽとぽとと落ちてくる。同じく登場人物たちは胸に赤い薔薇、白い薔薇を付けていたり、服装も赤いマント、白いマント、シルバー、など色分け。視覚的に登場人物たちの所属を示してくれていて、多少ぽとぽとの音が台詞の邪魔にはなったけれど、面白い試みだったと。
今回セットらしいセットはほとんどなく、真っ白な舞台に大きな階段、客席が舞台を取り囲む形で、上手と下手には背の高い入り口、客席も舞台に使う演出で、劇場中をイギリスとフランスに巻き込んでいました。

途中ちょっとまったりしてしまって眠い場面もありましたが、総合的に大変満足して、帰りは同行者と話のはずむ電車になりました。
お尻はちょっと痛かったけれど。
蜷川さん、シェイクスピアは次はじゃじゃ馬ならしでしょうか、オールメール新作、久々に楽しみにしています!
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by yopiko0412 | 2010-04-03 23:47 | 演劇  

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