人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『私の中のあなた』

映画の予告はあまり見たい質ですが、これはちらっと流れた予告で見たくなった作品です。
テーマは重いし、泣くの必至なんですが、断片的な予告で見た家族がどういうストーリーを紡ぐのか、見たくなりました。

もうね、わかってましたが、冒頭からずっと、泣きっぱなし。
現在の中に、過去の回想を織り交ぜてるんですが、それもわざとらしくなく、丁寧なつくりで家族がどうやって戦ってきたのか、どんな日常だったのか、それぞれにどんな問題を抱え、乗り越えてきたのか、がきちんと描かれている。



裁判の流れでは、途中で「これはケイトの想いをアナが戦っているんだろう」とは思いましたが、姉妹が戦う決意をする場面に色々な想いが詰まっていて。ケイトは、母の彼女に対する愛情も、愛情ゆえになんとか生かしたい、という想いもわかっていて、でもその反面、そのことによって自分が「生」を全うすることができない、母のために「生かされる」存在になってしまうことを危惧していて。ケイトは、自分で自分の「生」を生きたかったんだろうと。さらに彼女は自分が家族から得たもの、自分が家族から奪ったものも理解していて。アナの身を守りたい、という想いもあったはず。そして、躊躇うアナを、逆に励ます。ジェシーが言うように、ケイトは覚悟ができていて、最期に「いい人生だった」と言える人生を歩んだから。そしてアナの身を守り、アナの将来を夢見、アナを見守ることを約束して。母には自分の想いをそのままぶつけることはできなかったんだろう、母の想いを痛いほどわかっているから。

ジェシーも、ケイトの想いを知っていて。でも何も言わず。彼が夜の街を宛てもなく彷徨っていたのは、彼自身どうしたらいいかわからなかったから、かな。そしてケイトが回顧するように、ジェシーはケイトの影で両親からの関心や愛情をめいっぱい感じることができていなかった。だから、「怒られると思っていたのに、怒られない」ことに戸惑う。ケイトの病気のことも、両親の想いも、ジェシーもわかっていて、だから何もいえなくて、でも自分が構ってもらえないことに寂しさを感じて、彷徨う。
でも、裁判の中でアナが小さな身体で戦う姿を見て、ケイトの苦しみを理解して、母にも父にも気づいて欲しくて、殻を破る。

アナの想いも、強くて、哀しくて、愛情に満ちていた。ケイトが大好きで、ケイトの想いを受け止めたからこそ、あの辛い戦いに毅然と立ち向かっていけた。アナのケイトへの愛情は終始一貫していて、揺るぎがない。そして、判事に、彼女の娘が亡くなった時のことを尋ねたのは、母を想ってのことだったのかと。

両親の想いも、複雑に交錯していた。母はケイトを失わないことが全て、もちろんジェシーとアナのことも愛しているが、それでも彼女にとってケイトを失うことは絶対にあってはならないこと。平等に愛しているけれど、平等では済まされないラインがある。父もまたケイトを愛している。が、妻のそれとは違ったところもあったのかもしれない。ただ「生かす」だけでなく「望みを叶える」ことで愛情を表現しようとする父は、真意のわからないアナの裁判理由についても、自分たちは本当に正しかったのかと悩む。そしてケイトの死期を悟り、「望みを叶える」ことを体現してみせる。
判事にも、弁護士にも、この裁判にそれぞれ思うところがあり、そこには「生」と「愛情」の多様性が描かれている。

自分の人生を生きること、生きる自由、身体の自由、生かす愛、望みを叶える愛、解放する愛、受け入れる愛、生にも自由にも愛情にも多様性があって、何が正解かとかはない。どれもがそれぞれの正解で、結末はどれも本当。
この家族にも、ケイトの死が訪れ、それぞれの人生は続いていく。劇的なことはなくても、ケイトが生きて、死んだ、それがすべての答えだったのかもしれない。

by yopiko0412 | 2009-10-27 20:50 | 映画  

<< 『京乱噂鉤爪-人間豹の最後-』 演劇雑誌 >>